ストレスチェックについて、「従業員が50人を超えたら年に1回実施するもの」ということは知っていても、具体的にどこまでが会社の義務なのかは、やや分かりにくいところがあります。
誰を対象にするのか。結果を会社が見てもよいのか。高ストレス者が出た場合には、どこまで対応する必要があるのか。
さらに、2025年の労働安全衛生法改正により、これまで努力義務だった50人未満の事業場についても、2028年4月1日からストレスチェックの実施が義務化されます。
今回は、企業が押さえておきたいストレスチェック制度の基本を、実務の流れに沿って整理します。
現在の義務対象は「常時50人以上の労働者を使用する事業場」
2026年8月現在、ストレスチェックの実施が義務となっているのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です。
ここで注意したいのが、「会社全体で50人」ではないことです。
ストレスチェック制度では、本社、支店、営業所、工場などの事業場単位で人数を判断します。
たとえば会社全体では100人の従業員がいても、本社40人、支店30人、営業所30人という構成であれば、それぞれの事業場について人数を確認することになります。
「50人の数え方」と「実際に受ける人の範囲」は違う
特に間違えやすいのが、パートやアルバイトの扱いです。
50人以上の事業場に該当するかどうかを判断する際には、正社員だけを数えるわけではありません。
厚生労働省は、50人以上かどうかの判断について、衛生管理体制などと同様に、週1回勤務の労働者であっても、常態として使用している場合は人数に含めるとしています。
たとえば、
正社員3人+継続して勤務するパート48人=51人
という事業場であれば、パートの勤務時間が短くても、「50人以上」の事業場に該当することがあります。
一方で、実際に会社がストレスチェックを実施しなければならない労働者の範囲には、別の基準があります。
原則として、次の両方を満たす労働者が対象です。
- 期間の定めのない労働契約で使用されていること、または契約期間が1年以上である、更新により1年以上使用される予定であるなど、一定の継続雇用の要件を満たしていること
- 1週間の労働時間が、同じ業務に従事する通常の労働者の所定労働時間の4分の3以上であること
これは一般定期健康診断の対象者と同様の考え方です。
そのため、先ほどの「正社員3人+週1勤務のパート48人」という事業場では、事業場としては50人以上なのでストレスチェック制度の義務対象になる一方、週1勤務のパート全員が法定の受検対象になるとは限りません。
「50人の判定」と「誰に実施するか」は分けて考える必要があります。
年1回、ストレスチェックを実施する
対象となる事業場では、原則として1年以内ごとに1回、対象となる労働者にストレスチェックを実施します。
よく利用されるのが、厚生労働省の57項目の「職業性ストレス簡易調査票」です。
ただし、会社が独自に従業員向けのメンタルヘルスアンケートを行えば、それだけで法定のストレスチェックになるわけではありません。
法定のストレスチェックには「実施者」が必要です。
実施者になれるのは、医師、保健師のほか、所定の研修を修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士、公認心理師です。
また、対象となる労働者の解雇、昇進、異動などについて直接の権限を持つ人は、ストレスチェックの実施事務に従事することができません。
メンタルヘルスに関する情報を扱う制度だからこそ、通常の人事管理とは切り分けた運用が求められています。
個人の結果を会社が自由に見ることはできない
ストレスチェック制度で特に注意が必要なのが、結果の扱いです。
会社が費用を負担して実施していても、人事担当者や上司が個人の結果を自由に見ることはできません。
結果は実施者から労働者本人に直接通知され、本人の同意がなければ、個人のストレスチェック結果を事業者に提供することは禁止されています。
つまり、
「誰が高ストレスだったのか」
「この従業員の点数はいくつだったのか」
といった情報を、会社側が当然に確認できる制度ではありません。
一方、誰がストレスチェックを受検したか、まだ受検していないかという情報については、会社が把握することができます。
実際にシステムを導入する場合も、「受検状況を確認する権限」と「個人の回答や結果を見る権限」を分けておく必要があります。
高ストレス者全員を会社が面談させるわけではない
ストレスチェックの結果、高ストレス者として選定され、さらに実施者が医師による面接指導が必要と判断した場合、本人には面接指導を申し出る機会が案内されます。
本人から申出があった場合、会社は医師による面接指導を実施しなければなりません。
面接指導は、申出があってから概ね1か月以内に実施する必要があります。
ここでポイントになるのは、高ストレスと判定された人を、会社が一律に法定面接へ呼び出す制度ではないということです。
法定の面接指導は、本人からの申出を起点として行われます。
また、「高ストレス」という数値判定だけで面接指導対象者を自動的に決めればよいわけでもありません。
高ストレス者の判定をシステムで自動化することはできますが、最終的に医師による面接指導が必要かどうかについては、実施者による確認・判断が必要です。
一方、面接指導を申し出なかった高ストレス者についても、産業医や保健師、外部相談窓口など、相談できる場所を案内しておくことが望まれます。
面接指導の後は、必要に応じて就業上の措置を検討する
医師による面接指導を実施したら、それで終了というわけでもありません。
会社は、面接指導を行った医師から、就業上の措置が必要かどうかについて意見を聴きます。
その意見を踏まえ、必要がある場合には、
- 時間外労働や休日労働を減らす
- 業務量を調整する
- 担当業務を見直す
- 配置を変更する
などの対応を検討します。
どのような措置が適切かは、本人の状態だけでなく、実際の仕事内容や職場の状況によっても変わります。
ストレスチェックは、質問票を配布して結果を返せば終了する制度ではありません。
ストレスチェックの実施、結果通知、必要な人への面接指導、医師の意見聴取、その後の就業上の措置までが一連の制度として設計されています。
50人以上の事業場では労働基準監督署への報告も必要
常時50人以上の労働者を使用する事業場では、ストレスチェックの実施状況について、所轄の労働基準監督署への報告も必要です。
「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を、1年以内ごとに1回提出します。
ストレスチェックそのものは外部業者に委託していても、この報告まで自動的に完了しているとは限りません。
年間スケジュールを組む際には、受検期間だけでなく、その後の面接指導や労基署への報告まで含めて確認しておくとよいでしょう。
集団分析と職場環境改善は「努力義務」
個人の結果とは別に、部署や職場ごとのストレス傾向を確認するために行うのが集団分析です。
ストレスチェック結果の集団ごとの集計・分析と、それを踏まえた職場環境の改善は、現在のところ努力義務とされています。
ただ、ストレスチェックを実施する意味を考えると、集団分析はできるだけ活用したいところです。
たとえば、
「特定の部署だけ仕事の負担感が高くなっていないか」
「上司や同僚からの支援が不足している部署はないか」
「長時間労働が多い部署とストレスの高い部署が重なっていないか」
といった形で見ることで、個人への対応だけでは分からない職場側の課題が見えてきます。
なお、2026年6月には労働安全衛生規則が改正され、2027年4月1日から、集団分析は「特定の個人を識別することができない方法」で実施することが明文化されます。
これは従来の考え方を変更するというより、個人が特定されないように集団分析を行うという従来の運用を、法令上明確にしたものです。
従業員自身にはストレスチェックの受検義務はない
少し意外かもしれませんが、会社にストレスチェックの実施義務がある一方で、労働者本人には法的な受検義務はありません。
会社は、誰が受検していないかを確認し、未受検者に受検を勧めることはできます。
ただし、受けなかったことを理由に不利益な取扱いをすることはできません。
同様に、
- 結果を会社へ提供することに同意しなかった
- 医師の面接指導を申し出た
といったことを理由に、不利益な取扱いを行うことも認められていません。
会社には制度を実施する責任がありますが、それと同時に、従業員本人の意思やプライバシーを守ることも制度の前提になっています。
2028年4月から50人未満の事業場にも義務化
今後、大きく変わるのが小規模事業場です。
2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、これまでストレスチェックが努力義務だった50人未満の事業場についても、実施が義務化されることになりました。
施行日は2028年4月1日です。
これまで、
「うちは30人だからストレスチェックは関係ない」
としていた会社も、今後は対応が必要になります。
小規模事業場の場合、50人以上の事業場とは事情が少し異なります。
産業医の選任義務がない事業場も多いため、
- ストレスチェックの実施者を誰にするか
- 外部機関にどこまで委託するか
- 個人結果をどこで、誰が管理するか
- 高ストレス者から申出があった場合、面接指導をどの医師に依頼するか
- 社内で誰が制度全体を管理するか
といった点をあらかじめ決めておく必要があります。
厚生労働省は、小規模事業場向けの実施マニュアルを公開しており、地域産業保健センターでは50人未満の事業場を対象に、高ストレス者への医師の面接指導なども支援しています。
ストレスチェックのサービスを契約するだけではなく、その前後を含めた運用をどうするかまで考えておくことが大切です。
まとめ
ストレスチェック制度で、まず押さえておきたいのは、会社に求められているのが「年1回アンケートを実施すること」だけではないという点です。
実施者を定めてストレスチェックを行い、結果は本人に適切に通知する。
高ストレス者のうち面接指導が必要と判断された人から申出があれば、医師による面接指導につなげ、その後は医師の意見を踏まえて必要な就業上の措置を検討する。
50人以上の事業場では、労働基準監督署への報告も必要です。
一方で、会社が個人の回答内容や結果を自由に見ることはできません。
ストレスチェックでは、会社が制度を適切に運営することと、従業員のプライバシーを守ることの両方が求められます。
そして2028年4月からは、50人未満の事業場にも実施義務が広がります。
これまで対象外だった企業も、まずは「誰が対象になるのか」「誰が実施者になるのか」「高ストレス者が出た場合にどう対応するのか」を整理するところから準備を始めるとよいでしょう。
参考資料
- 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
- 厚生労働省「ストレスチェックって な~に?(事業者向け)」
- 厚生労働省「ストレスチェック制度関係Q&A」
- 厚生労働省「ストレスチェック制度について(労働者数50人未満の事業場)」
- 厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」
※本記事は2026年8月時点の法令および厚生労働省公表資料をもとに、ストレスチェック制度の一般的な内容を解説したものです。個別の事業場への適用については、最新の法令・行政資料等をご確認ください。
