会社はインフル・新型コロナワクチンをどこまで勧められる?秋冬の職場運用

秋冬を前に、インフルエンザ予防接種の費用補助や社内接種を検討する会社もあります。新型コロナワクチンを含め、「会社として接種を推奨するのか」「接種状況を確認するのか」「接種時間や副反応による休みをどう扱うのか」まで決めようとすると、健康施策と労務管理の境界が曖昧になりやすいところです。

会社がワクチンを受けやすい環境を整えることと、従業員に接種を義務づけることは別です。一般の職場では、接種機会の提供や費用補助は会社が選択できる施策であり、本人の意思による接種を前提に運用するのが基本です。新型コロナについては、厚生労働省も職場で接種を強制したり、未接種者を差別的に扱ったりしないよう明示しています。

インフルエンザ予防接種を会社が実施する法的義務はない

季節性インフルエンザのワクチンは、65歳以上と、60~64歳で一定の障害がある人について、予防接種法に基づく定期接種の対象になっています。それ以外の多くの現役世代が接種する場合は任意接種です。厚生労働省は、インフルエンザワクチンについて、感染を完全に防ぐものではないものの、発病や発病後の重症化・死亡を予防する一定の効果があるとしています。

新型コロナワクチンも、定期接種の対象は65歳以上と60~64歳の一定の対象者です。それ以外の人は希望すれば任意接種として受けることができます。2026年度も重症化リスクの高い人を中心とする定期接種を継続する方針が示されています。

これらの制度は、会社に従業員全員への接種を実施させる仕組みではありません。したがって、一般企業について「従業員にインフルエンザ予防接種を受けさせなければならない」「会社が接種費用を負担しなければならない」という一律の法的義務が生じるわけではありません。

会社が費用の全額または一部を補助したり、医療機関と契約して接種機会を設けたりする場合は、法定健康診断とは別の健康施策として設計することになります。

接種を勧めることと、接種を義務にすることは分けて考える

会社から従業員へ、ワクチンの効果や接種方法を案内し、希望者が利用できる接種機会を設けること自体に問題があるわけではありません。

ただし、予防接種は身体に対する医療行為です。特に新型コロナワクチンについて、厚生労働省は「接種は強制ではなく、あくまで本人の意思に基づく」と明示し、勤務先から接種を求められた場合でも、本人が望まなければ接種しないことを選択できるとしています。未接種を理由とした差別的な取扱いについても避けるよう求めています。

インフルエンザについても、定期接種に位置づけられるB類疾病の予防接種は、法律上、接種を受ける努力義務がなく、本人が自ら接種を希望していることを確認して実施する制度です。

したがって、一般的なオフィスなどで、

「原則として全員接種すること」
「未接種者は理由を会社に申告すること」

といった運用を当然の前提にするのは避けた方がよいでしょう。

医療機関、高齢者施設など、感染した場合に周囲へ与える影響や職業上の曝露リスクが一般の職場と異なる業務では、ワクチン接種の位置づけも変わります。それでも、医学的に接種できない人や接種を希望しない人がいることを前提に、マスク、手指衛生、換気、体調不良時の勤務方法などの代替策を含めて考える必要があります。

費用補助と「勤務扱い」は別に決める

会社がワクチン費用を補助する場合、補助することと、接種に必要な時間を勤務時間として扱うことは別の問題です。

例えば、会社が3,000円まで接種費用を補助すると決めたからといって、勤務時間中の受診を自動的に有給の勤務扱いにすることにはなりません。接種のための中抜けを認めるのか、年次有給休暇を使うのか、勤務したものとして取り扱うのかを、会社側で別に決めます。

新型コロナワクチンについて厚生労働省は、接種や接種後の体調不良に利用できる休暇制度を設けることや、ペナルティなしの中抜け、接種時間を勤務したものとみなす仕組みなどを、接種を受けやすくする運用例として示しています。ただし、これらをすべての会社に義務づけているわけではありません。

秋になってから個別に判断すると、「Aさんは勤務扱いになったが、Bさんは有給休暇だった」という運用差が生じやすくなります。費用補助を実施するのであれば、接種時間と接種後の体調不良についても先に社内ルールを決めておく方が扱いやすくなります。

例えば、費用補助については対象となるワクチン、補助上限額、申請期限を決めます。勤務については、勤務時間中の接種を認めるか、認める場合に勤務扱いとするかを定めておけば、担当者ごとの判断を減らせます。

接種歴を全従業員から集める必要があるとは限らない

ワクチン接種を支援すると、「誰が接種したかも会社で管理した方がよい」と考えることがあります。しかし、費用補助をすることと、全従業員の接種状況を一覧化することは別です。

会社が知りたいのが補助金の精算だけであれば、精算に必要な情報以上に接種歴を長期間保有する必要があるのかを検討できます。感染症対策が目的であっても、接種したかどうかを把握することで具体的に何を変えるのかが決まっていなければ、情報を集める目的が曖昧になります。

新型コロナワクチンについては、未接種を理由に不利益な取扱いをすることのないよう厚生労働省が注意を促しています。接種状況を確認する業務上の必要がある職場では、確認する目的、利用範囲、取り扱う担当者を先に定め、必要以上に社内共有しない運用が必要です。

特に管理職へ「部下の未接種者リスト」を広く共有するような方法は、何のために管理職がその情報を知る必要があるのかを説明できるか確認した方がよいでしょう。接種できない医学的理由まで取得すれば、より慎重な健康情報管理が必要になります。

2026/27シーズンはインフル・新型コロナとも秋冬接種へ

2026/27シーズンのインフルエンザワクチンについて、厚生労働省は2026年8月時点で約5,190万回分の供給を見込んでいます。これは近年の平均使用量を上回り、適正に使用すれば不足は生じない状況と評価されています。

インフルエンザは日本では例年12月から3月に流行することが多く、定期接種は毎年度秋冬に1回行われます。ただし、ワクチンを接種すれば感染や発症を完全に防げるわけではありません。会社の感染症対策を「接種率」だけで評価するのではなく、体調不良時に出勤を控えやすい仕組みや基本的な感染対策も別に整えておく必要があります。

新型コロナについては、2026年9月2日の厚生科学審議会資料で、65歳以上など重症化リスクの高い人を対象とした定期接種を引き続き行い、2026年度は10月1日から翌年3月31日を実施期間とする方針が示されました。XFGまたはNB.1.8.1対応ワクチンなどが今シーズンの定期接種に用いられる方針です。

一方、厚生労働省の一般向け新型コロナワクチンページは9月8日時点で、2026年度の詳細を「決まり次第」案内するとしたままです。会社が従業員向け案内を作成する場合は、実際の接種開始前に自治体・厚生労働省の最新情報を再確認するのが確実です。

会社が決めるのは「接種するか」ではなく「接種しやすい環境をどう作るか」

会社が秋冬の感染症対策としてワクチンを扱うのであれば、従業員一人ひとりについて「接種すべきか」を判断する必要はありません。接種の医学的な適否は、本人が必要な情報を確認し、必要に応じて医師と相談して決める領域です。

会社側では、費用を補助するか、勤務時間中の接種をどう扱うか、接種後に体調を崩した場合にどの休暇制度を利用できるか、接種状況を取得する必要が本当にあるかを決めます。接種を支援する仕組みと、本人の医療上の意思決定を分けておくことが、職場でワクチンを扱う際の基本になります。

そして、ワクチン接種の有無とは別に、発熱や咳などの症状があるときの出勤ルール、職場で感染が広がった際の連絡方法、換気や手指衛生などの感染対策を整えておく必要があります。ワクチンは職場の感染症対策の一つですが、それだけで職場運用が完結するものではありません。

参考資料

  • 厚生労働省「インフルエンザワクチン(季節性)」
  • 厚生労働省「新型コロナワクチンについて」
  • 厚生労働省「新型コロナワクチンQ&A」
  • 厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」
  • 厚生労働省「2026/27シーズンの季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの供給等について」
  • 厚生労働省「第67回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 資料」