健康診断は「再検査を勧めて終わり」ではない―企業が行うべき事後措置とは

企業の定期健康診断では、「要再検査」「要精密検査」「要治療」といった判定が出ることがあります。

その際、従業員に医療機関の受診を勧めれば、会社としての対応は終了と考えてしまうことがあります。

しかし、労働安全衛生法上の健康診断には、疾病の早期発見だけでなく、健康状態を踏まえて、その従業員が現在の仕事を安全に続けられるかを確認し、必要に応じて働き方を調整するという重要な役割があります。

健診結果について「医師の意見」を聴く

事業者は、健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者について、健康を保持するために必要な措置について医師の意見を聴かなければなりません。一般的な健康診断では、原則として健診実施後3か月以内に意見聴取を行います。

ここでいう「医師の意見」は、

「要再検査」
「要精密検査」
「要治療」

といった健診機関の判定とは別のものです。

厚生労働省の指針では、就業区分の例として、

  • 通常勤務:通常の勤務でよい
  • 就業制限:勤務に一定の制限が必要
  • 要休業:一定期間、勤務を休む必要がある

という区分が示されています。就業制限には、労働時間の短縮、時間外労働や出張の制限、作業の転換、深夜業の減少などが含まれます。

つまり、健診結果を単に「病院へ行く必要があるか」という視点だけで見るのではなく、仕事との関係で配慮が必要かまで確認することが求められています。

「受診勧奨」と「就業判定」は別のもの

ここは実務上、特に混同しやすいポイントです。

例えば、健康診断で血圧が高かった従業員に、

「医療機関を受診してください」

と案内するのは受診勧奨です。

一方で、

「現在の血圧や治療状況、仕事内容を踏まえて、通常勤務で問題ないか」
「夜勤や長時間労働を一時的に制限する必要がないか」

を検討するのが、就業上の措置に関する医師の意見聴取です。

労働局の資料でも、精密検査等の受診を勧めるだけでは十分ではなく、異常所見のある労働者について就業上の措置に関する医師の意見を聴取する必要があると整理されています。

したがって、

「再検査を案内したので、健診後の対応は完了」

とは限りません。

50人未満の事業場でも意見聴取は必要

ここで注意したいのが、事業場の規模です。

常時50人以上の労働者を使用する事業場では、産業医を選任する義務があります。一方、50人未満の事業場には、原則として産業医の選任義務はありません。

しかし、健康診断で異常所見のある労働者について医師の意見を聴く義務そのものは、50人未満の事業場でもなくなりません。

したがって、

50人以上の事業場
→ 選任している産業医に健診結果や仕事内容などの情報を提供し、意見を聴くことが基本

50人未満の事業場
→ 産業医を選任していなくても、医師から就業上の措置について意見を聴く必要がある

という違いになります。

50人未満の小規模事業場では、地域産業保健センターで、健康診断結果に基づく医師からの意見聴取を無料で利用できる場合があります。

「産業医を置いていないから、健診後の就業判定も必要ない」というわけではない点には注意が必要です。

医師には「健診結果」だけを渡せばよいわけではない

就業上の措置を判断するためには、健康診断の数値だけでは十分でないことがあります。

例えば、同じ血圧値であっても、

  • デスクワーク中心なのか
  • 深夜勤務があるのか
  • 長時間労働が多いのか
  • 高所作業や運転業務があるのか
  • 身体的負荷の大きな作業なのか

によって、仕事との関係で検討すべき内容は変わります。

そのため厚生労働省の指針では、医師等が適切に意見を述べられるよう、必要に応じて労働時間、作業環境、作業負荷などの情報を提供することが前提とされています。実際、労働局も健診結果と作業内容等の情報を医師へ提供した上で意見を聴取する運用を示しています。

企業側で整えておきたい健診後の流れ

健康診断後の対応は、毎年その都度考えるのではなく、一定のフローとして整備しておくと運用しやすくなります。

例えば、

健康診断の実施

異常所見者の確認

必要に応じた受診勧奨

健診結果・仕事内容等を医師へ提供

就業上の措置について意見聴取

必要な就業措置を検討・実施

結果を記録し、その後の経過を確認

という流れです。

医師から就業制限等の意見が示された場合には、事業者がその意見を踏まえ、必要に応じて労働時間の短縮や作業の転換などの措置を検討します。厚生労働省の指針では、その際には本人の意見も聴き、十分に話し合うことが適当とされています。

なお、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、定期健康診断の結果を所轄労働基準監督署長へ報告する義務もあります。これは医師の意見聴取とは別の手続きです。

まとめ

健康診断は、「従業員に受診してもらえば終わり」ではありません。

異常所見がある場合には、受診が必要かという視点に加えて、現在の仕事を安全に続けられるか、何らかの就業上の配慮が必要かという視点で医師の意見を聴き、その結果を実際の健康管理につなげることが重要です。

また、この意見聴取は50人以上の事業場だけのものではありません。産業医の選任義務がない50人未満の事業場でも必要となるため、小規模事業場では地域産業保健センターなどの外部資源を活用することも選択肢になります。

健康診断を単なる年1回のイベントではなく、従業員が安全かつ健康に働き続けるための健康管理プロセスとして運用することが大切です。

参考資料

  1. 厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」
  2. 厚生労働省「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」
  3. 広島労働局「健康診断事後措置等の概要」
  4. 厚生労働省「産業医について~その役割を知ってもらうために~」
  5. 労働者健康安全機構・地域産業保健センター「健康診断結果に基づく医師からの意見聴取」